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【花一生花店のことがよくわかる!店員のエッセイ】尾﨑士郎賞佳作受賞作品「花と一生」

 

Instagramとの使い分けのため、これからはブログでは文章のほうをメインに更新していこうと思います😊

その第一弾として、、恥ずかしながら、西尾市が主宰している第六回尾﨑士郎賞に応募して佳作をいただいた拙作(エッセイ)を掲載することにいたしました!

応募作より読みやすく手を加えました。

少し長いので、お暇なときに読みに来ていただけたら幸せです💐♡

 

 


 

 

花一生花店。

わたしが勤める花屋の店名だ。

初めて目にしたときには、「花が一生花であるなんて、思い切りのよい言葉だ」なんて感心したものだが、

従業員となってから聞いてみると、どうやら創業者の一男氏が自らの名前から一文字とったということらしい。

「あと、一番の一でもあるからね。トップを目指すっていう」

と、一男氏の次男は解説してくれたが(そもそも「はないっしょう・はなてん」ではなく「はないち・せいかてん」と読むことぐらい、

「生花店」という単語さえ分かれば検討がつきそうなものだが)、

わたしは自分の美しい誤読がとても気に入っていて、仕事が一息ついたときなど、たまに思うことがある。

花が一生花であるように、人は一生人として生きる。

その関係性のなかに、私たちの手はあるのだ、と。

 

人生の中で大事なのは冠婚葬祭だけではない。誰に見せるわけでもない日々のことを、どれだけ慈しめるかに、その人の生き方は宿る。

 

成人式の日、髪を飾る用の花を求める女性の新成人の客足が途絶えたころ、

もう夕方になろうかという時刻にスーツ姿の若い男性のお客様が現れた。

「すみません。ここって、花束を作っていただくことってできますか? 三千円くらいで、おまかせで」

丁寧でこなれた敬語からは、外見からは大学生のようにも窺える彼がもう社会人として働いていることが察せられた。

黒のスーツはよく似合っているため、やけに張りのある肌がかえって浮いて見える。

おいくつだろう、なんて考えながら、さっそく花束を作るために「いいですよ。贈られる相手は、女性ですか?」と質問すると、

「はい。えっと、同い年で。今日成人式なんですけど」

なんて答えるものだから、おめでとうございます、と声が弾んだ。

脇から若者好きの店長が覗いてきて、式は終わったの、これから会うの、などと色々訊いている。

 

その間に若い女性らしいイメージの花を店内から選びとり、机に並べていく。

僕がやるね、と店長が腕をまくって薄いピンクの薔薇の棘を落とし始めたので、わたしはトルコキキョウの側枝と葉っぱを丁寧に取り除いていった。

彼はいろいろ突っ込まれるのが嫌ではないのか、立ち去らずにそばでわたしたちの作業をじっと見ていた。

 

会話の流れで地元の出身ではないと判明し、「じゃあ、今日はどちらから?」と店長が花を束ねつつ何の気なしに尋ねると、「東京です」と返ってきたのでふたり揃って仰天する。

「東京!?」

思わず大きな声で聞き返してしまった。用もないのにレジの前に立ち、わたしはもはや彼の話を聞くためだけにそこにいた。

「どうして東京から? 遠距離なんですか?」

踏み込みすぎかな、と思いつつも上手く対応してくれる彼を信頼して率直な疑問をぶつけてみると、

「違います。彼女も普段は東京で。彼女の地元なんですよ、ここ」

と爽やかに笑った。

 

どうやら午前中は自分の地元である東京で成人式に参加し、

終わったあとに二次会などへは出ず新幹線に飛び乗って彼女に会いに来たらしい。

すごく大変なはずなのに、「やっぱ、記念だし、一緒にいたいじゃないですか。そのとき花があったら、喜ぶかなって」と語る彼は、もう誰よりも大人に見えた。

彼は早すぎるくらいに、自分にとっての成人式、成人の日、大好きな人の大事さを、それぞれ理解できているのだ。

 

「ああ、いいですね。ありがとうございます」

「よかった。三千二百四十円になります」 

そんな言葉を交わして、最後に店長が「ぜひその花束を持った彼女と写真を撮ってきてください」と声をかけると、

彼は照れながら「はい」と応じた。

ビニール袋を提げて去って行く背中に精一杯の「ありがとうございました」を伝えながら、

私は、そうか、と泣きたい気持ちになった。

 

花はすぐに枯れてしまうけれど。

人もやがていなくなってしまうけれど。

 

彼と彼女の一生に、その花はたしかに咲いていたこと。その記憶がふたりを繋ぎ、彼と生、彼女と生とを繋ぐのだ。

 

花屋の花は、人間の都合で生まれて、育てられて、切られて、飾られる。

思春期はそれが生命の冒涜のようにも映ったけれど、いまはそう思わない。

花の一生が人の一生のためにあるという考え方は、花の一生を慈しむこころに必ずしも矛盾しないと思うからだ。

 

花が無くても生きていけるけれど、日々を大切にしなければ人間は人間らしさを失うだろう。

大事なひとに花を贈ることは、自分自身を大事にすることでもある。

 

ぜんぶ、繋がっているのだ。わたしはわたしの一生に咲く一輪を数えながら、今日も生きていきたい。

 

 


 

※消費税の引き上げにより、ただいま三千円の花束は税込3,300円となっております。

 

 

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